「天翔る」 page 1

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抜けるように青い真夏の空。

ブレットはサングラスを少し ずらすと、その青を、自らの瞳の青に重ね合わせる。
この青の先に、自分の求めるものがある。
幼い頃からずっと、追い続け、求め続けている夢。

それだけでいいと、思っていた。
それ以外いらないと、思っていた。


「ブレットー!」

空港のロビーで、離陸していく飛行機を眺めていたブレットの耳に届く、飛びきり元気のいい声と足音。
振り向いた瞬間、飛び込んできた それに足を取られて、思わず転びそうになる。
ブレットの足にしがみついて、無邪気に笑う少年。

「ゴー・・・相変わらずだな」

からかうように、少し荒っぽく髪を撫でる。
すると豪は、子供扱いするなと、足元で暴れて、小さな拳でポカポカと殴ってくる。
豪を怒らせずに髪を撫でる方法なら知っているのに。

一通り楽しんだブレットは、豪の前に屈み込んだ。
目を合わせようとすると、ぷいと そっぽを向かれてしまう。
豪はすっかりご機嫌ナナメのようだ。

「Sorry・・・でもゴーは一人で飛行機に乗れたんだろ?子供じゃないさ」

今度は、優しく頬を撫でる。
豪は最初の英語に少し戸惑っていたが、すぐに その後の言葉を理解して笑顔になった。

「へへへっ!空港までは烈兄貴と藤吉が見送りに来てくれたんだ!でも、その後は一人で来たんだぜ!!」

極度の高所恐怖症で、遊園地の高さを売りにしたアトラクションは全て×の豪。
それなのに、なぜ、ブレットに会いに来るための飛行機には、平気で乗れるのだろう?

それは、とても嬉しいはずの事実なのに、論理的に説明できないうちは、素直に喜べない。
つくづく、固い頭だと、ブレットは呆れる。
豪に出会って以来、随分柔らかくなったはずなのだが。

「なに変な顔してんだぁ、ブレット?」

すっかり考え込んでいたブレットに、豪が声をかけた。
ブレットは苦笑すると、豪の小さな手をひいて歩き出した。


夢を追い求める気持ちに変わりはない。
そのために、どんな努力も惜しまないし、ほんの少しの妥協も、躊躇も、するつもりはない。

ただ・・・・・・

「ゴー・セイバ」

この小さな少年を、欲しい、と思う。

それは、許されないことだろうか。

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