「天翔る」 page 2

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「マグナムだろー、お菓子だろー、漫画だろー・・・あ!あと、ちゃんと持ってきたぜ、夏休みのドリル!!」

宇宙飛行士訓練学校内の寮にあるブレットの部屋につくと、豪は早速ベッドによじ登って、背負っていたリュックの中身をばら撒いた。
最後に取り出した夏休みの宿題は、ブレットが、「必ず持って来い」と 言って聞かせたものだ。

いくらブレットが航空券を手配したところで、両親と、こわーい烈の許しが無ければ、豪はアメリカに来られない。
そこで、
「夏休みも終わりに近づいて、溜まりに溜まった手付かずの宿題を、アメリカに居る数日間で一気に片付けさせる」
という切り札を出して、豪を連れ出したのだ。
マサチューセッツ工科大学を主席で卒業したブレットだからこそ できる芸当、と言うべきだろうか。


「行くぞ、ゴー」

大まかに宿題に目を通したブレットは、ベッドの上でマグナムをいじっている豪を呼んだ。
行き先は、校内の施設の一つである、学生事務局。
豪の施設滞在手続きを取りに行くのだが、つまらないからと言い聞かせても、豪は一緒に行くとごねるに決まっている。
けれど事務局に連れて行ったところで、ブレットが手続きをしている間、豪が大人しく待っているとも思えない。
ブレットには妙案があった。


ブレットは事務局の側の建物に豪を案内した。
そこは、図書館と資料館になっていて、宇宙に関する資料が大量に展示してある。
休日には一般にも開放している建物だ。
そして、ブレットのお気に入りの場所でもある。

もっとも、ブレットがここを訪れるのは、人気の絶えた夜更け。
一人で、ゆっくりと館内を歩き、遠い宇宙へ思いを馳せるのだ。


「わー、すっげー!模型が一杯飾ってあるぜ!!」

豪は歓声を上げて、ロケットや人工衛星の模型が展示してあるウインドウに へばりついた。
休日には家族連れや、時には小学生の団体なども見学に来るので、子供の喜びそうな仕掛けも用意されている。
自分が事務局に行っている間、ここで豪を遊ばせようと、ブレットは考えたのだ。

あちこち走り回っていた豪が、ふと足を止めた。
珍しく神妙な顔をして、さっきまで騒いでいたのが嘘のように、何も喋らず一心不乱に何かを見つめている。
ブレットは不思議に思って、豪に近寄っていった。

「どうしたんだ?ゴー・・・」

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