「天翔る」 page 6

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楽しい時間は、まるで夢のように過ぎていき、豪が日本に帰る日が翌日に迫った。
最後の夜・・・


「なぁブレット・・・・なんで俺達、一緒にいるんだろう・・・?」

月明かりに淡く照らされたベッド。
先に眠ったと思った豪が、ポツリと呟いた。

ブレットは少し体を起こして、左腕に抱いていた豪の顔を覗き込む。
白い月光がその輪郭を鋭利に写し出し、あどけない少年を少し大人びて見せていた。

「明日にはすごく遠くにいる・・・何度会っても、そのたび離れちゃうのに・・・なのに、何でまた一緒にいるんだろう」

大きな瞳が揺れて、豪の不安が伝わってくる。
日本とアメリカ、その距離は、子供である豪には遠すぎる。
別れのたびに、その幼い心を痛め、会いたい時に会えない辛さは、その小さな心に重く圧し掛かっているのだろう。
一番大切な少年を、きっと誰より傷つけている。
それでも・・・


「俺は空へ翔け上りたい・・・そして、ゴー・セイバ・・・お前と一緒にいたい」
「完全に、矛盾した願望だ」

柔らかな髪と、滑らかな頬を、白い指先で順に撫でる。
豪は体を震わせて、首筋で止まったブレットの手を握り締めた。

「それでも、俺は・・・どちらも諦めるつもりは無い・・・・俺はワガママなんだ」

豪が目を大きく見開いた。
ブレットは、それ以上何も言わずに、両腕で豪を抱きしめた。


ブレットの胸に顔をうずめて、豪がくすくすと笑い出した。

「そっか・・・・ワガママなんだ・・・・俺もよく烈兄貴に『お前はワガママだー!』って怒られっちまう」
「でもさ、俺って、烈兄貴の言うようにワガママなんだよな・・・だってさ・・・」

小さな両手でブレットの頬を包み、うんと体を伸ばし・・・・ためらいがちに鼻先にそっとキスをする。
ブレットがそれを認識した時には、豪は真っ赤な顔で再びブレットの腕の中に戻っていた。

「だって俺・・・どんなに遠くにいたって、ちょっとしか一緒にいられなくたって、お前と一緒にいたいって思うの、諦めたりできねーもん!」

今度はブレットが目を丸くした。
その様子を見て、豪が思わず吹き出した。
どうやら、よほど面白い顔をしてしまっていたらしい。

笑い転げている豪を見て、ブレットはふっと頬を崩した。
不安だったのは、豪だけではない。
豪がブレットの言葉に安心したように、ブレットもまた、豪の一言によって、胸のつかえが取れたような気がしていた。
誰に何を言われるよりも、自分自身に言い聞かせる言葉よりも、この小さな少年の言葉が、自分の心に、こんなにも深く作用してしまう事実。
それが、とても嬉しい。


「なぁゴー・・・キスする場所がズレてるんじゃないか?口ならもう少し下だぜ?」

ブレットは転がり回る豪をひょいと捕まえると、その膝の上に乗せた。
豪は冷めかけた頬をまた真っ赤にして、ぷいと横を向く。

「し、知らねーよーだっ!」

「ふーん・・・じゃあ、俺がキスしなおしてやるよ」

「えええっ、何でそうなんだよー」

おしまい!
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