腕の中で、豪の体が震えていた。
大切なミニ四駆を馬鹿にされたことへの怒り・・・
かつて自分も同じ事をしたブレットとしては、胸が痛む。
けれど、ブレットは気がついていなかった。
自分が背中から抱きしめている豪。
小さな拳を握り締め、俯いたままの その少年が、どんな顔をしていたのか。
「ブレットの・・せいじゃ・・・ねーよ」
唐突に発せられた一言。
聞き取れはしたが、意味がよく理解できない。
もう一度聞き返そうとしたとき、豪が回された腕を跳ね除け、振り返り、そして顔を上げる。
豪の体を震わせていたのは、怒りだけではなかった。
「ブレットが訓練やってね―のは、俺が、押しかけたからだ!サボったわけじゃねーよ・・・」
「俺の・・・せいなんだ!俺がお前の夢、邪魔してるっ・・・」
言葉が途切れた瞬間、大粒の涙が零れ落ちる。
ブレットは、言葉が出なかった。
豪が自分の夢の障害になると思った事は、一度も無い。
けれど、豪自身の気持ちには、考えが及ばなかった。
子供だから、そんな事を考えるはずは無いと・・・きっと、そう思い上がっていたのだ。
「俺は、飛びきり優秀なんでな・・・わざわざサボらなくても、ちゃんと休みは取れる・・・その休みに、お前と一緒にいる、それだけだ」
やや素っ気ない言い方は、豪の心をこれ以上苦しめたくない、ブレットの精一杯の努力。
豪はブレットの言葉を頭では理解できたが、涙と共に溢れだした感情を止める事が出来なかった。
「でも・・・俺のせいでブレットが宇宙飛行士になれなかったら・・・そしたら俺・・・」
「・・・・勘違いするなよ、ゴー」
ブレットは、豪の両腕を掴むと、やや乱暴に引き寄せた。
豪は突然の出来事に、ただ戸惑って、目の前の青い瞳を見つめる。
「お前といたら俺の夢が壊れる?お前、俺を・・・俺の夢を、そんな脆いものだと思ってるのか?」
豪は既に泣きじゃくっていて言葉が出ない。
涙と鼻水でグシャグシャになった顔をブンブンと横に振って、懸命に否定する。
ブレットは力いっぱい豪を抱きしめた。
「だったら・・・俺の傍にいろ!」
豪は小さな手でブレットのジャケットをきつく握り締めると、小さく うなずいた。
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