「離せよー!」
豪の大声と数人の笑い声。
すぐに状況を察したブレットは、一つ向こうのフロアに走った。
制服を着た生徒達が、豪を摘み上げている。
訓練学校にも短いながら夏休みは存在するが、その期間を丸々休めるのは、ブレットを含めた少数の優秀な生徒だけで、大抵の生徒は、訓練に従事している。
もっとも、ブレットは自ら望んで、夏休みを、豪と過ごす数日間のみ申請して、残りは訓練に当てている。
ブレットは、つかつかと歩み寄った。
「ゴーは俺の友人だ・・・離してくれ」
穏やかな口調とは裏腹に、ブレットの表情は、凍てついた刃物のようだった。
生徒達が怯んだ隙に、彼らの手から豪を強引に奪い取る。
豪はブレットにしがみついた。
「余裕だなブレット・・・訓練サボって、ガキと遊んでやがるのか」
生徒達のリーダー格と思われる赤毛の少年が、ブレットの前に立ちふさがった。
ブレットは豪を降ろすと、そっと自分の脇に寄せた。
ブレットは押し黙ったまま、何も話そうとしない。
辛辣な言葉を浴びせかけて、彼らをやり込める事は出来る。
けれど、これからの数日間は豪もこの施設で過ごすので、余計な火種は作りたくなかった。
しかし結局は、赤毛の少年を無視し、彼のプライドを傷つける形になった。
「ちょっと成績いいからって調子に乗ってんじゃねーぞ!いつか蹴落としてやる」
彼はブレットの胸ぐらをつかんだ。
それでもブレットは眉一つ動かさない。
しかし・・・
「ブレットにひどい事すんなよっ!」
豪が赤毛の少年を突き飛ばすようにして、二人の間に割って入った。
足元で必死に両手を広げ、小さな体を盾にして少年からブレットを守ろうとする。
ブレットは、それを見て初めて、その表情を崩した。
豪は懐からマグナムを取り出すと、目の前で自分を睨みつけている少年の前に掲げた。
「勝負しろっ!俺が叩きのめしてやる!!」
一瞬間を置いて、ぽかんと目を丸くしていた赤毛の少年は大笑いしはじめた。
取り巻きの生徒達も笑い出す。
豪は何が起きたか分からずに、ただ彼らの顔をキョロキョロ見回すしかない。
「ばっかじゃねーの?そんなオモチャ、訓練以外で触る気もしね―よ!」
「ブレット!てめーはせいぜい、ガキとオモチャ遊びでもしてな!」
「ミニ四駆はオモチャなんかじゃねー!」
少年達に飛びかかろうとする豪を、ブレットが抱き止めた。
散々悪態をついた少年達は、ニヤニヤ笑いながら去っていった。
彼らの姿が見えなくなっても、ブレットは豪を抱きしめたまま離さなかった。
頭に血が上っている豪には、何を言っても聞こえない。
せめて、豪の心を少しでも早く静められるように、何度も何度もその髪を撫でてやった。
|
|