「Odore dell' Angelo」 page 1

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バロックの香り漂う広場。
いくつもの彫刻に飾り立てられた大きな噴水の前に、まるで絵画から抜け出してきたかのような美しい少年が たたずんでいる。
絹糸のように滑らかな金色の髪を、繊細な指で かきあげる その少年は・・・・
とても、怒っていた。


ここのところレースや取材に追われて、ゆっくりイタリアに来る暇がなかった。
ようやく時間が出来たので、シュミットやエーリッヒの目を盗んで、こっそりと出かけてきたのだ。
もちろん、この国にいる あの少年に会うために。
前日に連絡を取り、この場所で会う事になったミハエルは、少し早めに来て、上機嫌で彼を待っていた。

しかし、約束の時間を とっくに過ぎているというのに、待ち合わせの相手が、いっこうに現れない。
待つ事一時間。
ミハエルにしては よく持ったと言うべきだろうが、我慢の限界は とっくに超えていた。


「もうっ!何してんのさカルロってば・・・せっかく早起きして、お気に入りの服だって着てきたのにっ!!」

とうとう我慢しきれなくなったミハエルが、怒鳴り声を上げた。
その声に、周りの人々の視線が一気に彼に注がれる。
しかし、当の本人は、周りの光景など、まるで目に入っていない。
肩にかかる髪を苛立たしげに払うと、ざわめく人々の間を わき目も降らずに つかつかと歩いていった。


華やかな通りを離れる頃には、かんかんに怒っていたミハエルは一転して、不安げに沈んでいた。

その性格から、約束など守りそうにないと思われがちのカルロだが、ミハエルとの約束を破った事はない。
待ち合わせの時間に遅れたことさえない・・・カルロは、意外に几帳面なのだ。
そんなカルロが、自分から場所と時間を指定した待ち合わせ場所に、1時間経っても現れない。

『もしかしたら、何かあったのかも・・・』

ミハエルは、きゅっと唇を噛みしめると、否定するように頭を振った。
考えていたって仕方がないし、確かめる方法は一つしかない。
早く、少しでも早くカルロに会いたい。


無意識のうちに、走り出していた。
レースで走り慣れているはずなのに、まだ たいして距離も走っていないのに、胸が締め付けられるように痛い。
痛みの意味を理解する暇さえなく、ミハエルは走りつづけた。

激しく息を切らせて足を止めた そこは、カルロの住む古びたアパートの前。
最上階の彼の部屋の窓が閉まっているのを、ミハエルは苦しげな表情で見上げた。
カルロは部屋にいない・・・?

ミハエルは息を整えると、ゆっくりと階段を上っていった。

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「Odore dell' Angelo」・・・Smell of Angel(伊)