「Speicher」 page 1

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大きな桜の木の下、柔らかな芝生に寝転んで気持ちよさそうに寝息を立てている銀髪の少年。
そして、その隣で、手にした文庫本のページをめくっている栗色の髪の少年。

薄い桃色の花びらが髪を掠め、手元に舞い降りて、シュミットは顔を上げた。
既に凛とした表情が備わっている その顔だが、まだ だいぶ幼さが残っている。
シュミットは、小さな花びらをはさむようにして本を閉じると、隣で眠っているエーリッヒに目を向けた。

自分と同じ歳のはずだが、その顔立ちにも、体つきにも、若干 青年の それが見えはじめている。
彫りの深い顔立ちが木漏れ日によって美しく影を作り出す様子に、シュミットは時間が経つのを忘れて見入ってしまった。

手を伸ばし、額から鼻先に、端正な輪郭をなぞって、そっと指を滑らせてみる。
エーリッヒは くすぐったそうに鼻をこすると、夢見ごこちのような表情でシュミットを見上げた。
木漏れ日に淡く照らされた少年は、紫がかった青い瞳で、やさしく微笑んだ。

「・・・おはよう、エーリ」


「お前は本当に よく眠るな」

シュミットといる時のエーリッヒは大体、ミニ四駆をいじっているか、昼寝をしているか・・・もしかしたら、話している時間など、ほんの少しかもしれない。
ベラベラと話すのが好きではないシュミットにとっては、ちょうどいいのだが。
エーリッヒが昼寝好きというわけではなく、それにはちゃんと理由がある。

二人が通っているプライベートスクールは、名門と呼ばれる家柄の子供たちが多数通っている。
入学費も、年間の授業料も、並ではない。

エーリッヒの家は、裕福ではない。
特待生なので入学費、授業料は免除されるが、生活費に関しては負担するしかない。
両親の負担を少しでも減らしたいエーリッヒは、寝る間を惜しんでバイトをしているのだ。


「ああ・・・お前のそばにいると、よく眠れるんだ」

エーリッヒは額にかかる髪をかきあげながら、体を起こした。
バイトの事は、シュミットには話していない。
隠し事をするつもりも、見栄を張るつもりも無いが、話してシュミットに余計な心配をさせる必要も無い。
それに、まんざらウソでもない。

僅かに顔を赤らめるシュミットを見て、エーリッヒは ふっと頬を崩した。

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「Speicher」・・・Memories(独)