「Speicher」 page 2

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エーリッヒは腕時計で時間を確認した。
シュミットがエーリッヒの昼寝を妨げたのは、ただの気まぐれではない。
今日は、二人にとって大切な、記念すべき日なのだ。



バスをいくつか乗り継いで、二人は緑に囲まれた大きな施設にやってきた。
アイゼンヴォルフ・・・ドイツでミニ四駆をやっている子供なら、誰もが憧れ、そこに入ることを夢見るチームだ。
しかし、ドイツでナンバーワンを誇る鉄の集団の中では、地方のトップレーサーでさえも、2軍所属という屈辱を味わうことになる。
今日からアイゼンヴォルフに入る二人も、その例外ではない。


「天才レーサー、ミハエル・・・やっとその走りが間近で見られるんだな」

緊張気味のエーリッヒを尻目に、シュミットは拳を握り締めた。
その顔には、若干の笑みさえ浮かんでいる。

ミハエルは最年少にして、一ヶ月足らずで1軍のトップに登りつめた。
今や世界各地のレースに出場し、天才の名を欲しいままにしている。
エーリッヒもシュミットも、テレビや雑誌でしか、その姿を見たことが無い。
まさに雲の上の存在。


シュミットは好戦的で、そして自信家だ。
エーリッヒにとっては憧れと同時に畏怖さえ感じるミハエルも、シュミットにとっては倒すべきライバルの一人なのだ。
もちろん、そう思うに足りるだけの実力を、シュミットは身につけている。

まるで加速していくようなシュミットの成長に、エーリッヒは少なからず焦りのようなものを感じていた。
現在、二人の実力は肉薄している。
しかし、シュミットがミニ四駆を始めたのは、自分よりも ずっと後だ。


「でも・・・負けるわけにはいかない」

エーリッヒは早足で歩き出した。
置いてきぼりを食らったシュミットが、慌ててその後を追う。
息を切らせて追いつき、見上げたエーリッヒの横顔には、先ほどのシュミットと同じ笑み。
シュミットは息を呑んで・・・そして微笑んだ。

「どっちが早く1軍に上がるか、競争だ!」
「ああ・・・!」

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「Speicher」・・・Memories(独)