思いもかけない言葉に、ヒカルは驚いて顔を上げた。
加賀は、けなす時でも誉める時でも、いつも率直だ。
けれど、今の言葉は、もっと・・・
まるで、加賀の心に手が触れたような、そんな感覚さえ覚える。
慌てて聞き返してみたが、加賀はそれきり黙ったまま、何も答えてくれなかった。
やがて対局は終わりを迎え、佐為は立ち上がった。
千年という長い時を経ても、昔と変わらず、透明な光を降り注いでいる天上の月。
千年前と同じ月の下で、千年前と同じように、今もこうして碁が打たれている。
何と喜ばしい事だろう。
「いい月だ」
気がつくと、先に碁石を片付けた加賀が、隣に立って、同じように月を眺めている。
佐為は頷いて微笑んだ。
片付け終わったヒカルも、月と睨めっこしてみるが、何がいいのか良く分からない。
「いつもと変わんないじゃん!」
「・・・ったく、情緒の分かんねぇ奴だな」
加賀は呆れ顔で、大あくびをしているヒカルの額にデコピンした。
「いったー!じょーちょって何だよ!って言うか、いてーよ!加賀のバカ!!」
「お前がバカなんだバカ!」
「バカバカ言うなよ、もー」
加賀に反撃しようとしたが、到底かなうはずも無く、ヒカルは羽交い絞めにされてしまった。
しばらくバタバタ暴れていたが、不意に大人しくなったので、不思議に思った加賀は上から覗き込んだ。
その瞳は、とても優しい。
ヒカルは少し赤くなって俯いた。
「あの・・・さ、・・・・・・オレ・・・また、遊びに来てもいい?」
俯いたままのヒカルの髪を、加賀は力任せに くしゃくしゃと撫でた。
「いつでも来いよ・・・!」
羽交い絞めされていたのが、何時の間にか抱きすくめられるような格好になっている。
ちょっと恥ずかしいけれど・・・もう少しだけ、このままでいたい。
ヒカルは加賀の大きな暖かい腕を、ぎゅっと抱きしめた。
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完
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