「そ、そんなの知るかよ!」
カルロは戸惑いを必死に隠しながら、イアムを睨んだ。
大人びた顔立ちのカルロが見せる幼い反応を、イアムは、とても心地よいと感じた。
同時に、素直になれない彼を、もう少し後押ししたくなった。
「だったら君は・・・ミハエル様と二度と会えなくなっても平気でいられるかね?」
ミハエルの笑顔が小さな光のように瞬いて、ふっと消えた。
同時に、胸を撃ち抜かれたような激しい痛みが襲う。
ミハエルに二度と会えなくなる・・・自分の隣からミハエルが消える・・・
今まで、ずっと一人で生きてきた
また・・・一人に戻るだけ
それだけの・・・ことなのに・・・・・・
「パパ・・・?」
夜の透き通った空気に響く、やわらかな声。
片方の手にはクマのヌイグルミを抱え、片方の手では目をこすりながら立っているミハエル。
愛くるしいその姿に、行き詰まった空気が ふっと揺るんだ。
我に返ったカルロは、一つの重大な事実に気がついた。
「な・・・だ、だってアンタ・・・ミハエルの身の回りの世話をしてるって・・・」
「私は嘘は言っていないよ・・・ミハエルの世話をしているのは事実だし、名前も正真正銘イアムだしね」
イアムはミハエルそっくりの悪戯っぽい笑顔で、あっけにとられているカルロに笑いかけた。
「君と話せて楽しかったよ・・・じゃあ、おやすみ・・・お二人さん」
イアムはミハエルの頭を一撫ですると、カルロに軽く目配せをして屋敷の中へと消えていった。
カルロはようやく状況を完全に理解した。
はめられた・・・!
それほど親しい世話係なら、ミハエルの口からその名が出ないはずがない。
イアムのペースに乗せられて、そこまで気が回らなかった。
カルロが半ば あきらめ気味にため息をついていると、ミハエルが おぼつかない足取りで歩み寄ってきた。
小さな手を伸ばすと、カルロの冷たくなった指先をきゅっと掴む。
それは、心の奥底までも、優しく包まれるような感覚だった。
「部屋に戻ろう、カルロ・・・!」
ミハエルに手を引かれながら、カルロは ぼんやり考えていた。
目を背けたい事実があっても、突き刺すような言葉があっても
ミハエルは変わらず、そこに いるから・・・・・・
つないだ手に力をこめた。
いつまでも離れなければいい・・・素直に、そう 思えた。
|
|
Das Ende.
|