「やっぱりF1はサイコーでげすなぁ!」 「はい・・・昨日のモナコGPは名勝負でございましたな、藤吉坊ちゃま」 活気あふれるローマ。 行き交う人々の中に、ひときわ小柄な尖がり頭のお坊ちゃまと、長身の執事の姿があった。 お坊ちゃまの名前は、かの有名な三国コンツェルンの御曹司、三国藤吉。 執事は水沢彦佐。彦佐は藤吉の世話係も兼任しているため、藤吉の出かける先にはいつも同伴している。 自身がミニ四レーサーである藤吉は、大のF1好きでもある。 特にモナコで行われるグランプリは、毎年欠かさず観戦に来るほどの熱の入れようだ。 昨日のグランプリでは、彼の応援しているレーサーが優勝。 今日の上機嫌というわけだ。 一夜明けてもまだ興奮冷めやらぬ二人は、ローマでショッピングをしながら、F1話に花を咲かせていた。 ところが・・・ 「スリだー!誰か、そいつを捕まえてくれーっ」 叫び声が二人の間に割って入った。 人々でごった返した広場の向こうのほうで、騒ぎが起きている。 興味深そうにそちらに向かおうとする藤吉を、眉をひそめた彦佐が静止した。 「坊ちゃま!危のうございますぞ」 「どけどけー!」 「な、何でげすか?!」 人の波をすり抜けて、何かが、もの凄いスピードで突っ込んできた。 藤吉が顔を上げると同時に、飛び出してきた何かと正面衝突してしまった。 「ぼ、坊ちゃまー!」 顔を真っ青にした彦佐が、倒れた藤吉に駆け寄った。 藤吉は目を回しているものの、怪我はしていないようだ。 藤吉の前に飛び出してきたのは、みすぼらしい身なりの少年。 頭を押さえながらフラフラと立ち上がると、まだ目を回している藤吉に怒鳴りつけた。 「テメー!どけっつったのが聞こえ・・・・あ・・・れ?お前・・・確かビクトリーズの」 「だ、誰でげすか?!わてはイタリア人に知り合いなんか・・・・ああっ!!」 この騒ぎと、ユニフォームを着ていないせいもあって一目で分からなかったが、 彼は紛れもなく、ロッソストラーダのメンバー、ルキノ・バルナーバだった。 |