「Dolci Giorni」 page 10

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「んなことより、ルキノに何の用だよ?!」
黙っていると、ミハエルが余計なことを藤吉に喋りそうなので、カルロは先に話題を切り出した。

「え?・・・あ、会いに来たんでげす」

言いながら、藤吉は、ミハエルの頭に乗せられたカルロの手をぼんやりと見ていた。
さっき藤吉の頭をわしづかみにした時とは、まるで違う手。

あの日、自分の頭に乗せられていた暖かいルキノの手。
その手は・・・今カルロがミハエルの頭に乗せている手と、同じだったのだろうか・・・?

「ね、カルロ!ルキノ君のところに連れてってあげようよ・・・部屋知ってるんだろ?」
ふさぎこんだ藤吉を見て、ミハエルがカルロに言った。
カルロは何も言わずに、ミハエルの頭を一撫でした。


あちこち壊れかかったアパートの薄暗い一室がルキノの住まい。
昨日は徹夜のバイトだったルキノは、心地よい眠りについていたのだが・・・・

ドンドンドンッ!
「おいっ、ルキノ!開けろテメー!!」

「うわっ」
まるで嵐が来たような騒音に、ルキノはベッドから転がり落ちた。

放っておくとドアを蹴破られるので、ルキノは渋々ドアを開けた。
しかし、そこにいたのはカルロではなく、この数日間ずっと頭の片隅にいた少年。

「トーキチ!」

思いがけず名前を呼ばれて、藤吉は赤面した。
ずっと聞きたかった声、ずっと見たかった顔。頭が真っ白になる。

「な、何しに来たんだバカ!ここがどんなトコだか分かってんのかよ!」
頭が真っ白になったのはルキノも同じだった。
他人の身を案じたことなど今まで一度だって無かった自分が、こんなに取り乱している。
けれど、今は そんなことに構っていられない。

藤吉は、すまなさそうに縮こまった。
「さっき分かったでげす」

「ったく・・・・バカやろっ!」

力いっぱい抱きしめられた。
息ができなくて もがいていると、少し力が緩められて、うまくルキノの腕の中に収まった。
ルキノは、何も喋らない。でも、これが答えなのだと思う。
藤吉は目を閉じた。


「単身手ぶらでイタリアに飛んで来たってか?無計画もいいとこだぜ」
ルキノは呆れ顔で、相変わらず縮こまっている藤吉にコーヒーを差し出した。

「・・・・で、今日はどうするんだよ」
「えっと・・・まだ考えて―」

「晩飯おごってくれるんなら、泊めてやってもいーけど」

藤吉は目を丸くしてルキノを見た。
『泊まっていけ』と言うだけなのに、ワンクッションもツークッションもおいてしまう、本当に素直じゃないルキノ。
なんだかくすぐったくて、妙に嬉しい。

「じゃあ今日は、ここに わてのお気に入りの一流シェフ達を呼ぶでげす!早速電話するでげす」
藤吉は携帯を取り出すと、あちこちに電話をして回る。
ルキノが事の重大さに気が付いたときには、すでに手遅れだった。

「な、何考えてんだお前!」
「調理場もトレーラーで運ぶから大丈夫でげす!」
「そんな事言ってんじゃねぇ〜〜!」
L' Estremita.

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「Dolci Giorni」・・・Sweet Days(伊)