土屋博士にFIMAに問い合わせてもらって、ルキノの住所を知った藤吉は、早速イタリアに向かった。 彦佐はいつものように藤吉の供をしようとしたが、藤吉は承知しなかった。 「今回だけは・・・わて一人で行かなくちゃいけないんでげす!」 藤吉の真剣な瞳に、彦佐は逆らうことができなかった。 俗にスラムと呼ばれる地区。その一角にある薄暗い通り。 イタリアには何度も来ている藤吉だが、こんな所を通るのは初めてだった。 場違いな訪問者に注がれる冷ややかな視線にはまるで気が付かずに、藤吉は地図を片手にあちこち歩き回っている。 道が入り組み、建物が雑然と立ち並ぶこの通りでは、地図もこれ以上は役に立ちそうもない。 藤吉はあたりを見まわすと、街頭の下にたむろしていた少年達に声をかけた。 「あのー、ルキノの家を探してるんでげす、この辺に住んでるって聞いたんでげすが・・・」 少年達は藤吉を取り囲むと、物珍しげに見まわした。 「金持ちそうなガキだぜ!ジャポネーゼじゃねぇか?」 「ああ、ジャポネーゼは金持ちなうえマヌケだからなぁ!」 ニヤニヤと笑っていた少年達は、突然、藤吉を押さえつけた。 「な、何するんでげすか?!」 「有り金全部置いてきな!」 数人に押さえつけられて手も足も出ない藤吉は、通りかかる人々に助けを求めるが、 人々は藤吉を助けるどころか、立ち止まってさえもくれない。 金持ちの子供がたかられる光景など、ここでは珍しくも何ともない。 一人でこんな所をうろつく方が悪いのだ。 「邪魔なんだよ、バーカ!」 後ろから声がしたかと思うと、藤吉の正面にいた一人の少年の顔面に蹴りが入った。 気が付くと、自分を押さえていた少年達も、いつの間にか地面に這いつくばっている。 「え?あれっ??」 目を白黒させている藤吉の頭を、何かがわしづかみにした。 顔を上げると、そこには不機嫌そうな顔をした白髪の少年が立っている。 「か、カルロ・・・・君」 「ひいいっ、カルロだ!」 「逃げろー」 少年達は蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。 カルロはその様子を、さして面白くもないといった表情で見送ると、つかんでいた藤吉の頭を放した。 藤吉は礼を言おうとしたが、カルロはそれを遮った。 「こいつが助けろってうるせーからよ・・・」 バツが悪そうにそっぽを向くその後ろから、金色の髪を柔らかく揺らせながら、小さな少年がひょこっと顔を出した。 小さな少年は天使のような笑顔で藤吉に微笑みかける。 「やあ!君、たしかビクトリーズの藤吉君だったよね」 「み、ミハエル君!・・・どうしてカルロ君と一緒に?!」 彼にとってまるで予想外の組み合わせに、藤吉は思わず、素っ頓狂な声をあげてしまった。 |