「はぁ〜・・・」 ここは東京にある三国邸。 食事もろくに喉を通らず、口を開けばため息ばかり。 イタリアから帰国して数日間、藤吉は部屋にこもりっぱなしで、ずっとこの調子だった。 「ホントに元気ねーな」 ドアの隙間からそっと覗いていた豪がつぶやいた。 隣の烈も心配そうにうなずく。 ふさぎこんだ藤吉を心配した彦佐が、星馬家に電話をして二人を呼んだのだ。 「なー藤吉!どーしたんだよ?」 ここに来て10数回目の藤吉のため息に、豪は思わず藤吉に声をかけた。 烈も、豪に続いて藤吉に駆け寄った。 「悩み事なら、相談に乗るよ!」 藤吉は二人に気が付いているのか いないのか、相変わらずぼんやりした表情で遠くを見ている。 少し顔を上げると、弱々しい声でつぶやいた。 「ルキノに・・・会いたいでげす・・・」 |
|
「へ?!」 烈と豪の大きな声に、藤吉は ようやく二人の存在に気が付いた。 みるみる顔を真っ赤にすると、突っ伏していた机から跳ねるように離れた。 「あっ・・・!い、いたんでげすか二人とも・・・な、何か用でげすか?」 豪は呆れ顔で、彦佐に呼ばれたのだと、ここに来た経緯を説明している。 傍らで、何か思うところがあるのか、烈は考え込んでいた。 「ね・・・ルキノってロッソの?どうして会いたいの?」 烈の言葉に、藤吉はさらに顔を赤くして後ろを向いた。 烈も豪も、こんな藤吉を見たのは初めてだった。 「会いたいなら、会いに行けばいーじゃん!」 そう言って能天気に笑う豪を、烈はたしなめて、背を向けたまま俯いている藤吉を見つめた。 豪はふくれていたが、烈の真剣な顔を見て、同じように藤吉を見つめた。 「ルキノは、わてになんか会いたくないでげす・・・ルキノは優しくしてくれたでげす・・・でも・・・でもそれは・・・」 藤吉は、わぁっと泣き出した。 |
|
烈は、床にへたり込んで泣いている藤吉の傍にしゃがむと、ハンカチを差し出した。 豪は困ったようにマグナムをいじったり、頭をかいたりしている。 イタリアでのいきさつを だいたい聞いた烈は、藤吉が少し落ち着いたのを見て、優しく話し始めた。 「ルキノ君が財布を取り戻すために藤吉君を連れて逃げた・・・それは事実だよ・・・でも、ルキノ君がその気になれば、藤吉君の財布を奪ったり、ひどい事だってできたはずだよ」 ルキノはそんな事はしなかったと怒る藤吉を、烈は例えだから・・・となだめて話しを続ける。 「藤吉君は、ルキノ君を信じてるんだろ?だったら・・・確かめに行きなよ!」 藤吉は、はっとしたように顔を上げた。 烈は力強く微笑む。 豪も、よく分かっていないものの、とりあえずうなずく。 藤吉は立ち上がると、顔をゴシゴシこすって、数日ぶりの笑顔を見せた。 |