泣き顔のような空からは、まもなく大粒の雨が降り出した。 ルキノはずぶぬれになりながらも、立ち止まることなく歩きつづける。 立ち止まってしまったら・・・必死で振り払おうとしているアイツの笑顔が浮かんでしまう。 アイツは金持ちだ。 何でか知らねーが、俺に なついてやがったし・・・ うまく利用することだけ考えてればよかったんだ。 利用するだけ利用したら、そのあと捨てればいいだけなんだ。 なのに・・・・どうして俺は・・・ 俯き加減に歩いていたルキノの肩が、ガラの悪そうな少年達の一人とぶつかった。 必然的にケンカを吹っかけられる。 この人数では、腕に覚えの有るルキノでも、かないそうにない。 普段のルキノなら、隙を見て逃げるか、うまく取り繕ってやり過ごすはずだった。 負けると分かっているケンカはしない。スラムで身につけた、ルキノなりの賢い生き方。 けれど・・・ 「うわあああっ!!」 ルキノは少年達に殴りかかった。 雨は徐々に小振りになり、やがて霧のように優しく街を包んだ。 ルキノを殴り飽きた少年達は、ゴミの散乱する路地裏に彼を放り投げると、唾を吐き捨ててその場を去っていった。 「う・・・・」 体を起こすことさえ ままならなかったが、全身の痛みのためか、意識だけは やけに はっきりとしている。 目を明けると、建物に挟まれた細長い空は、いつの間にか雲が晴れ、星が輝いていた。 一つ二つ見える、小さな星の瞬きを、ルキノは、ただぼんやりと眺めていた。 不意に、頬に感じた慣れない感覚。 自分でも気が付かないうちに、涙がこぼれていた。 自分で自分が分からない。こんな気持ちを、俺は知らない。 どうして、こんなに胸が痛い? どうして、こんなに心がかき乱される? 「・・・・トーキチ・・・」 うめくように吐き出した声は、誰にも届くことは無く、吹き抜ける風の音に かき消された。 |