ふっとエーリッヒの体が離れたかと思うと、強く引き寄せられ、今度は正面から抱きしめられる。 エーリッヒが時折見せる強引さには、いつも悔しいぐらい戸惑ってしまう。 シュミットは顔を上げた。 目に映るエーリッヒの表情。 シュミットただ一人だけを想い、貪欲なほど求めようとする、とても情熱的で、野性的な瞳。 その目を見てしまうと、体の芯まで熱くなって、普段の冷静な思考力など吹き飛んでしまう。 顎を持ち上げられ、やや強引に唇を奪われても、少しも抵抗できない。 シュミットはエーリッヒの首に手を回すと、目の前の端正な顔を、その瞳に映す。 普段の二人を見ている誰も、本当の二人の関係など想像できないだろう。 気が強く、プライドの高い自信家のシュミットと、おっとりしていて、優しいエーリッヒ。 常に二人で行動しているが、傍目には、シュミットが主導権を握って、エーリッヒはそれに付き従っているように見える。 いや、普段は実際そうなのだ。 それなのに・・・ 『いつもの のん気な顔が、どうやったらこんな風に変わって、私をこんな風に出来るんだ?』 いくら考えてみても、その答えは出そうに無い。 それに、答えが出たところで、エーリッヒの腕の中が一番心地のいい場所である事に変わりも無い。 「ただいまー!」 勢いよくドアを開けて、ミハエルが上機嫌でロッカールームに入ってきた。 真っ赤になって咳き込んでいるエーリッヒと、部屋の隅で これまた赤い顔でカレンダーをめくっているシュミット。 不自然な二人に、ミハエルは目をパチクリさせている。 「どうしたの二人とも?何か変だよぉ」 エーリッヒは額にかかる髪をかき上げると、不思議そうに二人を代わる代わる見ているミハエルに歩み寄った。 シュミットも手早く着替えを済ませると、ミハエルに駆け寄る。 「ミハエルはまだ10歳なんですから、外泊は控え目にしてください・・・お父様が心配しますよ」 一応注意はするシュミットだが、さっきまでの事もあって、随分と口調が優しい。 ミハエルも素直に反省しているようだ。 「はーい・・・でも、今度は外泊しなくていいんだよ!カルロが遊びにきてくれるからっ!!」 とたんにシュミットの顔が引きつる。 エーリッヒは、そんなシュミットを横目で見ながら、大きく伸びをした。 また、ひともんちゃくありそうだな・・・ 無意識のうちに口元に笑みが浮かんでいたエーリッヒを、シュミットが目ざとく見つけて睨んだ。 「何を笑ってるんだ、エーリッヒ!」 「あー、何でも無い!何でも無いよ・・・」 |
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Das Ende. |
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