「Gesichter」 page 5

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ふっとエーリッヒの体が離れたかと思うと、強く引き寄せられ、今度は正面から抱きしめられる。
エーリッヒが時折見せる強引さには、いつも悔しいぐらい戸惑ってしまう。
シュミットは顔を上げた。
目に映るエーリッヒの表情。
シュミットただ一人だけを想い、貪欲なほど求めようとする、とても情熱的で、野性的な瞳。
その目を見てしまうと、体の芯まで熱くなって、普段の冷静な思考力など吹き飛んでしまう。

顎を持ち上げられ、やや強引に唇を奪われても、少しも抵抗できない。
シュミットはエーリッヒの首に手を回すと、目の前の端正な顔を、その瞳に映す。


普段の二人を見ている誰も、本当の二人の関係など想像できないだろう。
気が強く、プライドの高い自信家のシュミットと、おっとりしていて、優しいエーリッヒ。
常に二人で行動しているが、傍目には、シュミットが主導権を握って、エーリッヒはそれに付き従っているように見える。
いや、普段は実際そうなのだ。

それなのに・・・

『いつもの のん気な顔が、どうやったらこんな風に変わって、私をこんな風に出来るんだ?』

いくら考えてみても、その答えは出そうに無い。
それに、答えが出たところで、エーリッヒの腕の中が一番心地のいい場所である事に変わりも無い。


「ただいまー!」

勢いよくドアを開けて、ミハエルが上機嫌でロッカールームに入ってきた。

真っ赤になって咳き込んでいるエーリッヒと、部屋の隅で これまた赤い顔でカレンダーをめくっているシュミット。
不自然な二人に、ミハエルは目をパチクリさせている。
「どうしたの二人とも?何か変だよぉ」

エーリッヒは額にかかる髪をかき上げると、不思議そうに二人を代わる代わる見ているミハエルに歩み寄った。
シュミットも手早く着替えを済ませると、ミハエルに駆け寄る。

「ミハエルはまだ10歳なんですから、外泊は控え目にしてください・・・お父様が心配しますよ」
一応注意はするシュミットだが、さっきまでの事もあって、随分と口調が優しい。
ミハエルも素直に反省しているようだ。

「はーい・・・でも、今度は外泊しなくていいんだよ!カルロが遊びにきてくれるからっ!!」

とたんにシュミットの顔が引きつる。
エーリッヒは、そんなシュミットを横目で見ながら、大きく伸びをした。
また、ひともんちゃくありそうだな・・・

無意識のうちに口元に笑みが浮かんでいたエーリッヒを、シュミットが目ざとく見つけて睨んだ。
「何を笑ってるんだ、エーリッヒ!」
「あー、何でも無い!何でも無いよ・・・」


Das Ende.

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「Gesichter」・・・Faces(独)