それは、漠然とした不安だった。 普段は忘れてしまうくらい小さな事で・・・ 夕日をランドセルをしょった背に受けて、家路を急ぐ烈。 今日返ってきたテストの事、昼休みに屋上でやった草レースの事、豪が宿題を忘れて たまみ先生に怒られた事など考える。 不安は、久しく忘れていた。 「豪のヤツ、宿題なんて無いよーって言ってたくせに!」 烈はブツブツ独り言を言いながら、この角を曲がれば家が見える所までやってきた。 「あれっ?あそこにいるのは豪じゃないか」 電柱の影で ゆらゆらと揺れる、見覚えのある紺色の髪。 蓋が開いたままのだらしないランドセルも、毎日見ているそれだろう。 烈は笑いをこらえながら、そーっと近づいていった。 声をかけようとした瞬間、豪の向こう側にいる人物の姿が目に飛び込んできた。 アストロレンジャーズのリーダー、ブレット・アスティア。 豪よりずっと背の高い彼は、片膝を地に付けて、豪に目線を合わせ、話を聞いている。 人前で外す事の無いゴーグル・・・今日はサングラスをジャケットの胸元に差して、とても優しい瞳で豪を見つめる。 烈は声をかけるのをためらっていた。 烈が出ていけば、きっとブレットは立ち上がって、サングラスをかけてしまうだろう。 二人の邪魔をしてしまうようで、何だか気が引けてしまう。 その時、ブレットが何気なく豪の髪に手をかけ、その左の頬に軽くキスをした。 豪は眉を寄せて困ったような顔をしているが、何も言わずに大人しくしている。 会うたび これなので、さすがの豪も慣れてきたらしい。 それでも、やはり恥ずかしいのか、頬をほんのり染めている。 再び話を始めた二人の後ろには、もう烈の姿は無かった。 豪より何倍も顔を赤くした烈は、そのまま元来た道を引き返して、別の道から家に帰っていた。 足取りが重いその脳裏には、さっき見た光景が いつまでも離れない。 久しく忘れていた不安が、浮かび上がってくる。 『どうして・・・・』 『どうしてリオンは・・・・』 強い風が吹いて、烈は思わず帽子を押さえる。 豪とブレットの姿は、いつの間にか消え、心にはリオンの笑顔だけが浮かんでいた。 |