「もー!待ってってば!」
追いついたミハエルは、カルロの空いている左腕をぎゅっと抱きしめた。
「ったく・・・遅せーんだよ」
悪態しかつかないカルロだが、その左腕は「空けていた」・・・と言ったほうが正しい。
ミハエル以外の人間には決して空くことがないのだから。
ミハエルは先ほどのカルロの答えを思い出し、抱きしめる手に力をこめた。
カルロがそんなミハエルの様子をちらっと盗み見る。
それは「当たり前」の質問かもしれない。
それは「分かりきった」事かもしれない。
でも・・・
カルロは、ミハエルを、壊れてしまうほど強く抱きしめたい衝動にかられた。
夜の闇が静かに空を包み込んでいく。
いつもと何ら変わりのない光景なのに・・・
ベッドの中で安らかな寝息をたてる小さな小さな温もり
それだけで、全てが優しくなるような気がする。
珍しく感傷的になって、シャワーを浴びていたカルロは、それを打ち消すように水の勢いを強めた。
本当なら、ミハエルは夕方にはドイツに帰っているはずだった。
例のお供の二人組みが引きつった声で電話をしてきたが、
ミハエルは受話器の向こうの様子などまるで気にも留めず
「うん、飛行機乗り遅れちゃったんだ!今日はカルロの部屋に泊まっていくから」
俺は何度もお前に飛行機の時間を確認したぞ・・・。
カルロはわずかに口元を緩めると、シャワーを止めた。
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