濡れた体を適当に拭くと、上半身は裸のままでカルロはバスルームを出た。
まだ雫のしたたる髪を煩わしそうに乾かしながら部屋に戻ってきたが・・・。
「あれっ?」
テーブルの上に脱ぎ捨ててあったはずのシャツが無い。
床に落ちたのかとテーブルの下を覗き込むが、見当たらない。
首をかしげながら、ふとベッドに目を向けた。
「・・・っ!」
天使のような顔で眠るミハエル。
隣には自らがお節介で持ちこんだ大きなクマのヌイグルミ。
そしてミハエルの手には・・・消えたシャツが、きつく、きつく握られている。
カルロは、胸の奥が痛いほど締め付けられるのを感じた。
出会って間も無い頃は、ミハエルを何不自由していないお坊ちゃんだと思っていた。
自分とはまったく正反対の人間だと思っていた。
しかし、それでは割り切れない思いがあった。
一点の曇りも無い強さと美しさ、そこに介在する脆さを感じた時から・・・
それが何か分からないまま、戸惑いながらもミハエルに近づいていった。
ミハエルも・・・自分に近づいてくるのが分かった。
そして・・・
ゆっくりベッドに腰を下ろすと、それに合わせてミハエルの体が わずかに上下する。
狂おしい思いに揺さぶられ、その髪にさえ触れることができずに、ただ寝顔を見つめる。
ミハエルは、ずっと『一人』だったんだ。
優しく暖かい親がいて、仲間に囲まれて、脚光を浴びて・・・
けれど、ミハエルの『心』は、ずっと・・・。
天才ゆえの孤独か、もっと他に理由があるのか。
にこやかな笑顔の狭間で、誰にも心を開けず、不安と寂しさに揺れる瞳。
その瞳を、カルロは確かに知っていた。
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