カルロの脳裏を一つの光景がよぎる。
それは、いつも自分を苛んでやまない、ナイフのように尖った、痛々しい過去の記憶。
重く濁った空。延々と振り続く雨。薄暗い通り。
罵声。嘲笑。怒り。憎しみ。
そして・・・一人立ちつくす、ボロ切れのような・・・自分。
真っ暗な闇の中に引きずり込まれる感覚に、カルロは きつく拳を握り締めた。
目を開けていることさえ出来ない。
「・・・・?」
暖かくて柔らかい何かが頬に触れて、闇の底からカルロを引き上げた。
ゆっくり目を開けると、眠っていたはずのミハエルが、じっと 自分を見つめている。
カルロは自分の頬に手をやった。指に触れる小さく柔らかい感触に、そこにあるものがミハエルの手であると分かった。
「ミハエル、お前 いつから―――」
カルロの声を遮り、ミハエルは その小さな腕で、カルロを自らの胸にかき抱いた。
自分の倍ほども背丈のあるカルロの体の重みを逆らわずに受け止め、そのままベッドに倒れこむ。
包み込むような甘い香りと温もり。
それは、カルロから言葉を、わずかな身じろぎすらも奪うのに十分なものだった。
「大丈夫・・・」
つぶやくようなミハエルの声。
「ぼく・・・どこにも行かないよ・・・カルロのそばにいるから・・・」
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