「・・・悪いな」
「模型屋 連れてってやるって・・・約束したのに・・・」
カルロは、少しかすれた声で 呟いた。
いや、呟いたわけではないのだが、熱のせいで声すらまともに出せないのだ。
普段のカルロなら、決して口にしない言葉。
ミハエルは、拳を握り締めた。
「そんなのっ!そんな事より、カルロのほうが大事だよ!!」
思わず大きな声を上げたミハエルに、カルロは驚いて目を丸くした。
『何か』よりも自分が大切だ、などと、今まで誰にも言われた事がなかった。
自分の事を、誰かが心配し、自分のために誰かが叱ってくれる事も・・・
熱のせいだろうか・・・戸惑いながらも、カルロは素直に、嬉しいと思った。
ミハエルは はっとして顔をそむけた。
チームのメンバーですら、思いやった事がないミハエル。
冷酷に思われるが、ミハエルはただ、人を思いやるという感情、
家族など近しい人間には意識せずに向けている その感情を、それ以外の人に向ける術を知らないだけなのだ。
今、自分はカルロを思いやっている。
それは、ミハエルにとって驚くべき事実だった。
「ぼ、ぼく・・・薬 買ってくるよ!」
ミハエルは顔をそむけたまま立ち上がった。
その手を、カルロがとっさに掴む。
「いい!寝てれば治っちまうから」
「で、でも・・・」
「いいから・・・ここに いろよっ!」
カルロはミハエルの手を力任せに引き寄せた。
予想もしていなかった強い力に、ミハエルはベッドに倒れこむ。
熱を帯びたカルロの体は微かに震えていて、それに触れたミハエルは動く事が できなかった。
「ここに・・・・・・いてくれよ・・・」
カルロの手から力が抜けて、ミハエルは そっと離れた。
タンスからシャツを引っ張り出してくると、それをカルロに着せ、念入りに布団を着せた。
「ぼく、ここにいるよ・・・だから、ちゃんと休んで」
カルロは目を閉じると、小さくうなずいた。
|
|