眠っているカルロをベッドに残して、ミハエルは台所で悪戦苦闘していた。
昨日から何も食べていないカルロのためにリゾットを作ろうと思い立ったのだ。
米を固形スープで煮込み、パルメジャーノを加えるだけのシンプルなリゾットなのだが、
料理はクッキーを焼く程度しか した事のないミハエルには、とても難解な料理に思える。
カルロはいつも、あんなに簡単そうに作っているのに・・・
それでも、カルロがやっていたのを思い出しながら、少しずつ作業を進める。
やがて、部屋に コンソメのいい匂いが漂いだした。
カルロが鼻をヒクヒクさせて、微かに目を開ける。
両手でリゾットを乗せた皿を大事そうに抱えて、こちらに歩いてくるミハエルの姿が目に入った。
「リゾット作ってみたんだけど」
「・・・・いらねー」
ミハエルが初めてお菓子以外の料理を作ってくれたのだが、頭がぼんやりしていて、とりあえず、食べ物を口にしたくないという体の反応にしたがって応答する。
「駄目だよ、熱下がらないよ・・・食べなさい!」
軽くたしなめられて、カルロは閉口してしまった。
ミハエルがカルロのことを子供扱いするのは いつもの事だが、今日は やけに それを強く感じる。
決してミハエルが大人っぽく見えるわけではない。
けれど・・・
ミハエルはスプーンにすくったリゾットを食べやすいように息を吹きかけて冷まし、カルロの口元に運んだ。
カルロは口を開けない。
「・・・ね、カルロ・・・一口だけでいいから」
今度は、優しく微笑みかける。
カルロは、少しずつ食べ始めた。
カルロはミハエルの作ったリゾットを、ほとんど残さず食べた。
ミハエルは嬉しい反面、少し心苦しかった。
ミハエルの作ったリゾットは、お世辞にも おいしいと言える代物ではない。
米の炊き方も不十分で、味もなんだか心もとない。
いつも おいしい料理を作って食べているカルロにとっては、きっと まずいと感じたに違いない。
「ごめんね・・・苦しくてご飯食べられないのに・・・ぼくの作った 下手な料理 無理して・・・」
「べ、別にお前のために食ったんじゃねーよ!他に食うもんねぇから・・・仕方なくだ」
食べ物を腹に入れて少し元気が出たのか、カルロは しょんぼりしているミハエルに声をかけた。
いつもと同じ、ぶっきらぼうだけれど優しいカルロの言葉が、ミハエルを笑顔にした。
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