場所は変わって、施設内にある『ミハエル専用』の練習コース――
「シュミット!」
その瞬間、シュミットは がっくりと地に膝をついた。
「シュミット!まだレースは終わってないんだぞ!!」
エーリッヒはマシンを止めると、放心状態のシュミットに駆け寄った。
床に転がっているシュミットのマシンを拾い上げ、手渡そうとする。
シュミットは自分の肩を掴むエーリッヒの手を払いのけた。
「嫌だ!結果は目に見えている・・・これ以上は無意味だ」
スタート直後、二人はミハエルの前に出た。
後方の天才が気にかかるが、振り返っている余裕は無い。
やがて大きなコーナーを幾つか過ぎても、まだミハエルが追いついてくる気配は無い。
シュミットは少し前を走るエーリッヒに視線を送った。
エーリッヒがそれに応える。
二人が、お互いの動揺を視線の中で感じ取っていた。
自分たちがミハエルの後を追う形でレースが展開する事は、容易に想像できた。
シュミットの頭には、その天才を追いかけ、そして追い抜くビジョンさえも浮かんでいた。
眼前に天才の姿は無い。
それは喜ぶべき事実なのに、どんなに打ち消そうとしても、言い知れぬ不安がこみ上げてくる。
「・・・・そろそろ行こうか、ベルクカイザー」
ミハエルは静かに言い放った。
何が起こったのか、すぐには理解できなかった。
気がつくとミハエルが目の前にいて、次の瞬間には大きく離されていた。
二人はすぐにミハエルの後を追ったが、その間の事は、あまり記憶に残っていない。
そして・・・
ミハエルは遥か前方を走り、シュミットのマシンはコースアウトしていた。
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