後ろを走っていた二人が相次いでリタイアしたので、前方を走っていたミハエルもマシンを止めた。
「二人で作戦でも立てるの?しょうがないなぁ・・・早くしてね」
そう言って その場に座り込むと、クラッシックの流れるイヤホンを耳にさして、マシンをいじり始めた。
エーリッヒはシュミットを抱き起こした。
立ち上がりはしたものの、シュミットは俯いたまま顔を上げない。
「シュミット、ミハエルが待ってくれている・・・レースを続けよう」
「まだ負けると決まったわけじゃない」
シュミットはバッと顔を上げ、エーリッヒを睨みつけた。
「決まったわけじゃない?決まってる!」
「今の私達では、絶対に勝てるものか!!」
パシッ
小さな鋭い音が、静まり返った練習場に響いた。
シュミットは頬をおさえながら、呆然としてエーリッヒを見つめる。
さっきまで、破裂しそうなほど沢山の事で一杯だった頭が、一気に真っ白になってしまった。
エーリッヒは、シュミットの頬を打った右手を、きつく握り締めた。
「・・・このままレースを続けても、俺達はミハエルに勝てない・・・負けを認めざるをえないだろう」
「でも、今シュミットがやろうとしてる事は、・・・自分が傷つくのを恐れて逃げ出す事だ!」
手にしていたシュミットのマシンのスイッチを入れる。
先ほどコースアウトした時に細部を破損しているものの、走行に支障はないようだ。
エーリッヒは、唸りを上げるマシンをシュミットに突きつけた。
手にしたマシンから伝わる振動が、シュミットを揺さぶる。
「・・・・走りたいのか、お前・・・・・・傷ついても・・・それでも」
シュミットはマシンを握り締めると、ミハエルの元に歩み寄った。
既にミハエルは、マシンの音を聞いて、立ち上がっている。
「レースを中断させてすまなかった・・・続けてくれるか?」
ミハエルは、にっこりと微笑んだ。
その後のレースは、ミハエルの圧倒的な勝利。
シュミットとエーリッヒにとっては、初めての惨敗で終わった。
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