閑静な住宅街の中で、ひときわ広い敷地を四方高い塀で囲まれたそれが、加賀の実家。
純和風の邸宅は、かなり年季が入っていて、もしかすると古い家柄なのかもしれない。
加賀の家に来たのは これが初めてではないが、何度来ても、少し緊張してしまう。
「遠慮すんなよ!だーれもいねーからさ」
加賀は靴を脱ぎ散らかして、スタスタと中に入っていった。
ヒカルはギクシャクしながら靴を脱いで揃えると、ひっくり返っている加賀の靴を揃えて隣に並べた。
そして玄関で加賀を待つ。
加賀の父親は、出張続きで、めったに家にはいない。
母親は・・・ずいぶん前に亡くなったらしい。
家に帰ると、加賀は真っ先に母親の仏壇に手を合わせるのだ。
しばらく待っていると、奥から加賀が出てきた。
「部屋行こうぜ」
庭に面した長い廊下をしばらく歩くと、おもむろに立ち止まり、障子を開ける。
よく手入れされた立派な松の木と、大きな池が見渡せるその一室に、加賀はヒカルを案内した。
「相変わらず何にもないね、加賀の部屋って」
ヒカルはリュックを肩から下ろして見回した。
8畳くらいの部屋の中にあるものと言えば、
小さな机と、その上に並べてある数冊の文庫本、そして灰皿。
テレビやゲーム機、ミニコンポに漫画本が並んでいるヒカルの部屋とは、だいぶ異なっている。
「オレは何にもないのが好きなんだよ・・・それより、やるんだろ?宿題」
加賀はタバコに火をつけると、庭を眺めているヒカルを促して机の前に座らせた。
自分も隣に座ると、ヒカルが取り出したプリントをパラパラとめくった。
「何だ、全然簡単じゃねーか!とりあえずやってみろ!で、わからないトコあったら聞けよ」
そう言うと、文庫本と灰皿を手にして、ヒカルの後ろでゴロリと寝転がった。
簡単だと言われて、ヒカルは少しホッとしてプリントを始めたのだが・・・
『ううう、ちっとも簡単じゃねぇ〜』
一枚目にして、ヒカルは頭を抱えてしまった。
|
|