夕日が庭を赤く染める頃には、ヒカルは最後のプリントを終わらせていた。
加賀という男、頭がいいのはもちろんだが、人に物を教えるのも上手らしい。
ヒカル一人では一週間かかっても終わらなかったかもしれない宿題を、数時間で片付けさせてしまった。
これまでに経験がない程大量に勉強して、ぐったりとのびているヒカルの隣で、加賀は手早く最後の見直しをした。
「・・・よし、やれば出来るじゃねーか進藤!・・・っと」
たまには誉めてやろうと思って振り返ると、ヒカルは畳の上にひっくり返ったまま、満足そうな顔で眠っている。
加賀は苦笑しながら立ち上がり、押入れから布団を引っ張り出して手早く敷いた。
ヒカルを起こさないように優しく抱き上げると、その上に寝かせて、布団をかけてやった。
「おつかれさん」
すやすや寝息を立てるヒカルの頭を一撫でして、加賀は部屋を後にした。
障子越しの淡い月の光に照らされて、ヒカルはゆっくりと目を開けた。
しばらくぼんやりと見慣れぬ天井を眺めていたが、自分が今いる場所と時間に気がつくと、血相を変えて起き上がった。
「も、もう夜!」
「お前んちには電話入れといたから、今日は泊まってけよ」
障子が開いて、浴衣姿の加賀が現れた。
風呂上りらしく、濡れた髪を片手で乾かしている。
昇り始めた月の光を背中いっぱいに浴びるその姿を、ヒカルは眩しそうに見上げた。
「お前のお袋さんがさ、『ヒカルが何か失礼な事したら、遠慮なく叱ってやってください』だってさ!」
けたけたと意地悪く笑う加賀を見て、ヒカルはぷうと頬を膨らませた。
文句を言おうとしたが、腹の虫が音を立てて、それを遮った。
ヒカルの規則正しい腹の虫は、今が、家ならちょうど夕食を食べているはずの時間だと、よく知っている。
「飯用意してあるぜ・・・こっちだ」
そう言って、加賀はスタスタと歩いていく。
ヒカルは慌てて、その後を追った。
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