ランドセルをガッチャガッチャと鳴らせながら、豪は上機嫌で、ブレット達の滞在しているホテルに向かっていた。
久しぶりにブレットに会える。
豪は決して認めないが、その事実が、豪を浮き足立たせていた。
いぶかし気なホテルの従業員達の視線をかいくぐって、
エレベーターが降りてくるのを待つ間も、せわしなく足踏みをして、
ドアが開くと、つむじ風のように、飛び込んで、
加速度的に上昇するエレベーターの中で、豪の胸は、さらに早いスピードで高鳴っていた。
ここまで走ってきたから、きっとそのせいだと自分に言い聞かせていると、やがてエレベーターが到着した。
ここに来るまでとは対照的に、豪は抜き足差し足で、ブレットの部屋へと向かった。
勘のいいブレットは、廊下をバタバタ走る足音で、豪が来た事に気づいてしまう。
そして、ドアの前でモジモジしているところを、不意にドアを開けられて、微笑みかけられてしまうのだ。
いつも鼻高々な彼が目を丸くするのを見てみたい。
ブレットが珍しく驚きの表情を見せた後、きっと普段の何倍も優しい笑顔を見せてくれる事を想像して、豪は小さくガッツポーズをした。
柱の影から様子を覗き見ていると、その先のドアが開いて、数人の女の子をはべらせたエッジが出てきた。
どうやら、ファンの女の子をナンパして部屋で騒いでいたらしい。
豪は呆れ顔で、後でジュンに報告しなくては、などと考える。
豪に悪気は全く無い。
ただ、普段からジュンに、『エッジが女の子といちゃついているのを見たら教えてくれ』と言われているので、
かわりに佐上模型店の商品を1パーセント引きで購入できる特典を貰っている豪は、約束を忠実に守っているのだ。
その時、エッジたちの向こうから歩いてくるブレットの姿が目に入って、豪は伸ばしていた首を慌てて引っ込めた。
銀色のアタッシュを手にする、素晴らしく端正な顔立ちの青年に、エッジの取り巻きの女の子達は黄色い声をあげる。
しかし、普段は愛想よくそれに答えるはずのブレットは、にこりともせずに、取り出したカードキーを挿してドアを開けた。
「いつまで遊んでいるんだエッジ・・・これからミーティングだ、さっさと用意しろ」
一瞥したブレットの表情の冷たさに、エッジは真っ青になった。
騒いでいた女の子達も、何も言えずに、その場から立ち去る。
そして・・・豪は俯いたまま、ホテルを後にした。
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