ブレットの腕の中で、小さな少年は、困った顔で もじもじしている。
こんなに優しくされている、こんなに優しい瞳で見つめられているのに、
数時間前に見た、あの冷たい顔が、どうしても頭の隅から離れない。
「な、何だよ、馬鹿に優しいな・・・気色悪いぞブレット!」
もがいて腕の中から抜け出そうとする豪を見下ろして、ブレットは軽い苛立ちを感じた。
ここに来るまで さんざん、しおらしい行動をしていながら、今この態度を見せる幼さ。
確かに、それが豪の魅力の一つではあるのだけれど・・・
「・・・レツ・セイバに頼まれた」
「帰れ!!」
今の豪が烈の名前、とりわけ、それをブレットが口にすることに過敏になっているのは分かっている。
別に豪の気持ちを試したり測ったりするつもりはないけれど、
まるで自分一人が、一方的に想い焦がれているようで少し悔しくて、だから少し、意地悪をしたくなったのだ。
期待通りの反応に、ブレットの体を震えが走った。
吸い込まれるように顔を近づけ、目の前の小さな額に唇を当てる。
きっとブレット自身、無意識のうちの行為だっただろう。
当然、豪は暫くの間、何をされたか分からずにいたが、
やがて、みるみる真っ赤になると、躍起になって暴れだした。
「何すんだよー!」
ブレットは手を緩めない。
唇を豪の額に触れさせたままの状態で、
「暴れると口元が狂うぜ・・・・ほら」
言うが、小さな顎を器用に持ち上げ、喚いている豪の口を自分のそれで塞いでしまった。
ブレットがようやく豪から放れたとき、豪は ただただ赤い顔で、自分を見下ろす青い瞳を見つめるしかなかった。
余韻を味わうように少しの間黙っていたブレットは、やがて微笑を浮かべて、豪の髪を撫でつけた。
「お前が暴れるから・・・・な」
「わ、わざとやったくせに!」
やっとの事で豪がそれだけ反論すると、今度はしっかりと笑って見せて、ブレットはベンチを跨いで豪の隣に座った。
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