『加賀のヤツ・・・何がデートだよ』
『って、来てるオレもオレだけど・・・しかも、約束の時間より かなり早く着いちゃったし』
待ち合わせをして、二人で並んで歩いて、買い物をしたり、食事をしたり。
今まで何度もやっていた行動だが、今は それに『デート』という名称が付く。
先日、突然 加賀に交際を申し込まれて(押し切られて)以来、『付き合っている』事になってしまっているので それも当然の流れなのだが、今まで何気なく やっていた事に名前が付いた途端、どうしてこんなに戸惑ってしまうのだろう。
そもそも、『付き合っている』という今の状況にすら、ヒカルはまだ慣れていない。
一人で考え込んでいると、だんだん胸がドキドキして落ち着かなくなってきた。
ヒカルは気分を変えようと、後ろで小さくなっている佐為に声をかけた。
『だからさっ!帰ったら対局してやるから、な!』
佐為は朝 加賀から電話があった時点で今日は碁が打てないと諦めて、それでも諦めきれなくて ため息ばかりついていたので、ヒカルの言葉を聞いて、さっきまで落ち込んでいたのがウソのように満面の笑顔でヒカルに飛びついた。
『ホント?ホントですか、ヒカル??加賀との「でーと」が終わったら対局してくれるんですか?』
『ばっ・・デートとか言うなっつの!』
『え?だって加賀が言ってましたよ それに「でーと」って、恋人同士が会う事なんでしょう?』
『うー・・・』
その話題から離れようと佐為に話し掛けたのに、結局 逆効果になってしまった。
ヒカルは赤くなった顔を隠すように、俯いて、取り出した携帯を開いた。
やる事も無いので、とりあえずアドレス帳を呼び出してみる。
家、家族、友達、そして、一人だけ別のグループに登録してある『将棋バカ』。
ページをめくると、ヒカルが以前こっそり撮って携帯に入れておいた加賀の写真が表示された。
名前 加賀鉄男、年 オレより2コ上、職業 もうすぐ高1、将棋部、不良、いっつもタバコ臭い・・・オレのカレシ。
加賀と『付き合う』のも、『デート』するのだって、ホントは全然嫌いじゃないのに、意識すると やっぱり恥ずかしくて、素直になれない。
手をつないだり、腕を組んだり、ホントは してみたい・・・けど・・・
「・・・加賀のばーか!」
ヒカルが携帯の画面と睨めっこしていると、佐為が後ろから覗き込んで、くすくす笑った。
『何笑ってんだよ、佐為!』
『あっ、いえ、何でも・・・ところでヒカル、私、ヒカルに聞きたい事があるんですけど』
『聞きたい事?』
携帯を閉じてポケットにしまうヒカルの隣に、佐為が腰をおろした。
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