その時、やや俯き加減で考え込んでいたヒカルの目の前が急に暗くなった。
「?」
ヒカルが顔を上げると同時に、ヒカルの真ん前に仁王立ちした人物も、体を屈めて その顔を差し寄せた。
「うわっ!か、加賀・・」
「ぼけーっとしてんじゃねぇよ!ここまで来ねーと気づかねぇのか?」
鼻先が触れそうな距離を保ったまま、加賀は不機嫌そうに眉を寄せてヒカルを見すえている。
どうやら、自分が正面から歩いてきているのに、ヒカルが気づかなかった事が不満らしい。
整いすぎた その顔を突然 間近に寄せられて、ヒカルはどぎまぎして 視線を外すことすら出来ずに硬直してしまった。
「オラ、どうした?何か言い分でもあるなら言ってみろ!」
「ええっと・・・・」
「加賀って・・・目、キレイだね」
こんな状況で、ご機嫌取りのセリフが出るほど器用なヒカルではない。
むしろ思っている事を ぽろっと口にしてしまうような性格だ。
ヒカルのそんな性格を ちゃんと分かっている加賀は、ヒカルがキレイだと言った その切れ長の目を少し見開いて、元の仁王立ちの姿勢に戻った。
「今更、んなトーゼンな事言うなよ」
毎度の自信過剰っぷりだが、加賀は少し くすぐったそうな笑顔でヒカルを見下ろしている。
元々、平均的な日本人のそれに比べると、色素の薄い こげ茶色の瞳が、柔らかな陽光の中で若干金色がかって見える。
ヒカルは、その色を とてもキレイだと思った。
加賀はアクビを一つすると、ポケットをまさぐって クシャクシャの煙草と小さなライターを取り出した。
「ねぇ加賀、何で座らないの?」
立ったままで煙草を吸い始めた加賀に、ヒカルは不思議そうに尋ねた。
ヒカルが後から来た時は、加賀はいつも、 大股開きで二人掛けのベンチを一人で占領して座り、煙草をプカプカ吹かしている。
加賀が後から来た場合でも、まずはヒカルの隣にドカッと腰を降ろし、一服やってから どこかに出かける・・・
いずれにしても、必ず このベンチに座る加賀なのだ。
ヒカルの質問に、加賀は困ったように頭をかいた。
「んー?座りたいのは山々なんだけどよぉ・・・なんか今日はソコ、座りにくいっつーか・・・」
加賀が視線を向けたヒカルの隣には、加賀には見えるはずの無い佐為がちょこんと座っている。
見えなくても、『何かいる』のを感じるのだろうか?
ヒカルと佐為は、顔を見合わせて思わず吹き出してしまった。
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