話を元に戻そう。
ワクワクしながら加賀の下駄箱を開けようとしたヒカルは、扉が半開きになっている事に気がついた。
「靴でも挟まってんのかな、だらしないなぁ・・・」
自分の事はまるで棚に上げて呆れながら扉に手をかけた、途端、中から雪崩のように何かが溢れ出し、次々と音を立てて床に落ちた。
突然の出来事に、ヒカルは扉に手をかけたまま しばらく固まっていたが、やがて 恐る恐る自分の足元に目をやってみる。
カラフルに散らばった大小様々の紙包み。
それらは明らかにバレンタインのチョコレートだろうし、加賀の下駄箱の中から出てきたのも十中八九 間違い無い。
ヒカルにとって全く予想外の、しかも漫画の中でしかお目にかかれないような状況。
「うそ・・・な、何コレ・・・?」
「ホント、メンドクセーよな」
驚いてヒカルが振り返ると、露骨にウンザリという顔をした加賀が立っていた。
「てゆーか、お前 ここでナニしてんの?」
「えぇっ?!ち、ちょっと用事・・・」
動けずにいるヒカルに ペッタンコの定番不良学生カバンを押し付けると、加賀は面倒臭そうに紙包みを拾い上げては、もう片方の手に持っている紙袋に放り込んでいく。
赤いハートのシールとリボンの付いた小ぶりの手提げ袋。
恐らく これも貰った物の一つなのだろう。
カバンを抱えて その様子を呆然と見ていたヒカルは、次第に苛立ちを感じ始めた。
「せっかく そんなイッパイ貰っといて、もっと嬉しそうな顔しろよ!」
「んな事言ったって、毎年コレだぜ?机ん中も同じ調子だしさ・・・」
最後の一つを既に満杯の紙袋に押し込んだ加賀は、靴を履き替えてから、むすっとしているヒカルの手からカバンを剥ぎ取った。
午後からの授業は出ない つもりらしい。
「またサボるんだ?」
そんな事は、どうだっていいのに。
普段と違う、トゲのあるヒカルの口調に、加賀が少し表情を険しくした。
「こんな奴のどこがいーんだろ・・不良だし、煙草臭いし、いっつも将棋ばっか指してるし」
「何だぁ?ケンカ売ってんのか、お前?」
加賀は怒るというよりは、今までに見たことが無いヒカルの様子に戸惑っているようだ。
ヒカル自身も、自分がどうしてこんなにイラついているのか分からない。
『加賀って、女の子にもてるんだ』
今まで考えもしなかった。
考えもせずに、一人ではしゃいでいた自分が、恥ずかしくて、悔しくて、ヒカルは唇を噛んで俯いた。
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