「どうしたんだ、進藤・・?」
いきなり突っかかって来たかと思えば、一転しょんぼりと黙り込んでしまったヒカルの心中を加賀は量りかねていた。
そもそも、どうしてヒカルが自分の下駄箱の前に立っていたのか・・・?
困って頭をかこうとしたが、生憎と その手はチョコレートで満杯の紙袋で塞がっている。
「あ!何だお前 僻んでんのか?ひょっとして、一個も貰ってないとか?あのなぁ、んなコト気にするこっちゃねーぜ」
「ち、違うよ!べ、別にオレ、加賀が女の子に人気あったって何とも・・・」
"その事"で頭が一杯だったヒカルの返答は、加賀の問いかけには やや噛み合っていない。
そんな自分自身と、訝しげな加賀の視線が、ますますヒカルを焦らせる。
と、後ろに隠すようにして持っていたイビツな紙包みが手から滑り落ちて床に転がった。
「わわっ・・」
ヒカルは大慌てで、素早く それを拾い上げたものの、ポケットに押し込もうとすると上手く入らない。
最悪を絵に描いたような状況とは、きっと今の自分のような事を言うのだろう。
頭の中はグチャグチャ、心臓は破裂寸前で、ヒカルは眩暈さえしてきた。
そこにトドメを刺すような加賀の一言。
「なぁんだ、お前も ちゃんと貰ってんじゃねーか!」
「加賀のバカっっ!!」
ヒカルは握り締めていたチョコレートを加賀に投げつけて、一目散に階段に向かった。
背中越しに聞こえた 自分を呼ぶ声に一瞬足を止めたが、振り向くことは出来ず、そのまま階段を駆け上がる。
廊下を走り続け、真っ赤な顔で教室に飛び込み、自分の机に突っ伏した時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
『ヒカル・・・ねぇ、ヒカルったら』
佐為が何度呼びかけても、ヒカルは突っ伏したまま顔を上げようとしない。
だだ、時間的には昼休みから数時間が経過していて、場所も教室からヒカルの部屋のベッドの上に変わっている。
午後からの授業も、帰り道も、ほとんど記憶に残っていなかった。
昇降口での一連の出来事が、何度も何度もヒカルの頭の中で繰り返される。
耳について離れない、別れ際に聞いた加賀の声。
「何で こんな事になっちゃったんだろ・・・」
昨日は、あんなに楽しかったのに。
不意に涙が溢れてきて、ヒカルは枕に顔を擦り付けた。
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