「FAKE」 page 4

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その時、部屋の扉がノックされて、母親の声がした。

「ヒカル!加賀さんが いらしてるわよ」

「い、居ないって言ってよ!」
「え?でもね、ヒカル・・」

ヒカルは顔をゴシゴシ擦ると、ベッドから降りて扉を開けた。

「何でもいいから、居ないって・・」
「もう お通し しちゃったわよ」

母親の隣には白い目つきをした加賀が立っている。
顔を引きつらせて言葉もないヒカルをたしなめると、母親は申し訳なさそうに加賀に謝りながら階下に去っていった。
それを笑顔で見送った加賀は、振り返りざまにヒカルの頭を小突いた。

「てめぇ、居留守使おーと しやがったな」
「うう・・・」

ヒカルは弁解する気力もなく うなだれた。
その様子を見て、加賀は不機嫌な表情は崩さないものの それ以上の追求はせず、ヒカルの頭を今度は軽く突ついて部屋に入った。

持っていた学生カバンをベッドの上に放り投げると、上までキッチリ留めていた上着のボタンを全部外して"いつも"の姿に戻る。

ヒカルが加賀の"マジメ"な制服姿を目にするのは、ヒカルの母親が居るときだけだ。
ボタンを留めるか留めないかだけで随分印象が変わるものだと、毎度の事ながら思う。
もちろん、その端正な顔に浮かべる"爽やかな笑顔"の影響も多分にあるのだろう。
この笑顔を持ってすれば、誤魔化しようのない煙草の臭いも『よく行く将棋サロンで付く』という言い訳が すんなり通ってしまうのだ。

「ほら、忘れモンだぜ」

加賀はヒカルの部屋の中の自分の定位置に座り込んで すっかり くつろぐと、ヒカルが投げつけた例の紙包みを取り出した。
閉めたドアにもたれて所在無さげにしていたヒカルは、もはや観念するより他になかった。


「・・・ふぅん、だったら そう言や いいだろ」
「・・・・・・」

昨日の事から洗いざらい白状させられたヒカルは、穴があったら入りたいといった態だ。
ようやく おずおずと加賀から少し離れたところに座り込んだものの、途端に首根っこをつかまれて引き寄せられてしまった。

「だから、なんで 何にも言わずに走ってくかな、お前はっ!」
「だ、だって、どうしていいか分かんなかったんだもん」

「加賀が、あんなに女の子に人気あるなんて・・・知らなくて・・・」

ヒカルは我知らず、泣き出しそうな顔になっていた。
胸が締め付けられる、その理由は分からない。
ただ、加賀が急に 手の届かない遠くに行ってしまったような気がして、寂しかった。

俯いたヒカルは、ふと、加賀の荷物の中に あのチョコレート満載の袋が無い事に気が付いた。
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