「進藤、灰皿!」
加賀はヒカルの首根っこから手を離すと、代わりにポケットから煙草とライターを取り出した。
ヒカルは顔を顰めて抗議してみるものの、放っておくと手近にある物に灰を入れられてしまうので、しぶしぶ昨日コンビニからの帰り道で買ったコーヒーの空き缶を渡した。
「あの、さ・・・あれ どうしたの?いっぱいあったチョコレート・・」
煙を逃がすために窓を開けながら、気になった事を質問してみる。
ベッドの脇に落ちていた雑誌を拾って読んでいた加賀は、咥え煙草のままで面倒臭そうに答えた。
「んー?その辺にいたガキに配っちまったけど」
「ええっ?!」
驚いたヒカルが思わず大きな声を出したものの、加賀はまるで意に介さないようで、雑誌から目を上げようともしない。
ヒカルは駆け寄ると雑誌を奪い取った。
「んだよ?」
「何てコトすんだよ!チョコくれた子が可哀想じゃんか!!」
さっきまで そのチョコレートの事を気に病んでいたわけだが、本人に自覚は無いものの 彼女達と同じ事をしようとしたヒカルにとってはヒトゴトではない。
いきなり説教を受ける羽目になった加賀は頭をかいたりアクビをしたりと まるで右から左だったが、納まらないヒカルの様子に、仕方が無いといった感じで軽く息を付いた。
「仕方ねーだろ、甘いモンあんま好きじゃねぇし」
「それにさ・・・オレ、そう言うのは好きな奴からしか受け取らねーから」
ヒカルは目を丸くした。
無くは無いだろうが、今時珍しいセリフだ。
少なくともヒカルの周囲では そう言った意見は聞かれた事は無い、と言うより、選り好みできるほどチョコレートを貰っていないのが実情だ。
「直接渡されたんなら断れるけど、机とか下駄箱に入れられてたら どうしようもねぇだろ?」
加賀はヒカルの手から雑誌を取り戻すと、左手に持っていた煙草を 軽く灰を空き缶に落としてから咥え直した。
先程までと同じ調子で再び雑誌を読み始めた加賀を、ヒカルは少し赤い顔で ぼんやり眺めていた。
『加賀って意外とマジメなんですね』
部屋の隅っこで面白そうに二人のやり取りを見物していた佐為がヒカルの傍にやってきて声をかけた。
ヒカルは少し考えてから、軽く首を振った。
『意外でもないよ・・・加賀って何となくさ・・・一人の女の子を大事にしそうな気がするもん』
今までとは違う、痛み。
心の奥が強く揺さぶられるのを感じた。
『加賀が好きになる子って・・・どんな子なんだろうな・・・・・・』
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