烈が帰ったあと、練習のときも、ミーティングのときも、食事のときですら、シュミットはエーリッヒの顔を見ようとしなかった。
それが、普段の自分らしくない、ひどく子供じみた行為であることも、
その行為がエーリッヒを少なからず苦しめてしまうことも分かっていた。
シュミットは後悔していた。
烈が突然現れたので思わず頭に血が上ってしまったが、
後からよく考えれば、エーリッヒが烈に会いに行った理由も、その時自分がいなかった理由も、嫌なくらい しっかりと理解できる。
けれど、もう引っ込みがつかなくなっていた。
素直になれたら、ただ一言でも謝ることが出来れば、こんなに苦しむこともない。
エーリッヒを苦しめる事だってない。
しかし、自らのプライドが、今だに胸の奥でくすぶる嫉妬心が、それを許さない。
シュミットは、少し体温の上がった自分の体を冷ますように、冷たい壁にもたれかかった。
「ご・・・めん・・・」
誰にも届かない声が、ため息のように口から漏れた。
夜・・・エーリッヒが部屋に戻ると、シュミットの代わりにテーブルの上に紙切れが一枚残っていた。
『今日は隣の部屋で寝る』
たった一行だけの、そっけない書置き。
それが、シュミットにとって精一杯の素直な行動なのだと、いったい何人の人間が気づくだろう・・・?
エーリッヒは、少し癖のある その筆跡を、ゆっくりと指でなぞった。
「様子を見にこい・・・って事か・・・困った人だな」
『困った』という言葉とは裏腹に、彼は嬉しそうに微笑んでいた。
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