「パパ!早く早く・・・こっちだよっ!」
「ははは・・・そんなに引っ張らないでくれよ」
満面の笑みを浮かべて、大きな手を引くミハエルの耳に、従兄弟達の声が聞こえてきた。
どうやら誰かと話し・・・言い争いをしている?
相手の声は聞こえないが容易に想像がつく。
それが外れている事を願いながら、ミハエルはゆっくりと声のする方向に近づいていった。
残念ながら予想は的中した。
ミハエルは隣の父親の様子を少し伺うと、最悪の予想は当たらないように祈った。
従兄弟達がいくら罵声を浴びせてもカルロは微動だにしなかった。
しかし・・・
「こんな得体の知れない奴を家に入れるなんて、ミハエルもどうかしてるぜ!!」
次の瞬間、カルロは彼らの一人を殴り倒していた。
彼らの口からミハエルの名前が出て、なおかつ口汚く罵られた。
怒りよりも遥かに強い何かが体を突き動かした。
「・・・アイツは世間知らずで、てんでお坊ちゃまで・・・だから俺みたいな奴にも平気で声をかけて・・・」
すっかり腰を抜かした従兄弟達は、白目をむいてひっくり返っている一人を引っ張り起こすのにも四苦八苦している。
カルロは半泣きになっている一人の胸ぐらをつかんで引きずり上げた。
「アイツは何も知らない、俺とは何の関係もない・・・分かったかっ!」
光の加減か、恐怖にかられる故か、引きずり上げられた一人が見たカルロの瞳は真紅に染まっていた。
地に付くか付かないかの足が、ガクガクと震える。
カルロは唇を噛みしめると、掴んでいた一人を投げ捨てた。
あたふたと逃げ出していく負け犬たちを見つめるカルロの目には、先ほどまでとは打って変わって、まるで力が無かった。
彼らが視界から消えても、カルロはぼんやりした表情で立ちつくしていた。
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