「さ、あの子のところに行ってあげなさい」
大きな手がミハエルの背中を優しく押した。
ミハエルは小さくうなずくと、カルロの元へ駆け出した。
今まで誰かを殴って後悔した事なんてなかった。
もちろん、あいつらを殴った事を後悔してるわけじゃない。
でも・・・ミハエルがその事を知ったら・・・
アイツは、俺を拒絶するだろうか・・・・・?
心の奥底で、何かが きしむ悲しい音・・・耐えがたい苦痛。
こらえようと きつく握り締めた拳から血が滲み、まるで涙のように流れ落ちて花弁を濡らした。
ドンッ!
突然、何かがカルロにぶつかってきた。
僅かな鈍い痛みの後に伝わってきた、よく知った香りと温もり・・・。
「ミハエル・・・どうした?」
頭をカルロの胸に押し当てたまま、ミハエルは手を回して、ぎゅっと しがみついた。
「見てたの・・・か・・・」
しばらく沈黙が続いたあと、回した手はそのままで、ミハエルが顔を上げた。
「ぼく・・・暴力は嫌い!でもね・・・生立ちで人を蔑んだりする人は、もっと嫌いだよ!」
ミハエルは視線を落とすと、血で塗れたカルロの手を、ためらうことなく両手で包みこんだ。
雪のように白いその指が血に汚れる・・・
カルロは とっさに手を引こうとしたが、ミハエルはそれを許さず、取り出したハンカチでそっと傷口を覆った。
一通り手当てをすると、ミハエルがプンプン怒りながら言った。
「カルロが殴らなくても、ぼくが殴るよ!」
大げさに巻かれたハンカチをいじっていたカルロは、目を丸くした。
ミハエルの口から出たのは、まったく想像していなかった、むしろ正反対とも思える言葉。
驚くと同時に、さっきは痛んだ胸の奥が、少し くすぐったくなった。
「お、お前が?・・・そんなバイオレンスには見えないぜ?」
カルロが全く信じられないといった顔をしているので、ミハエルは不満気に頬を膨らませた。
「ぼく強いんだよ!試してみる?」
「ぶっ・・・」
事の真偽はともかく、ミハエルの大真面目な顔が可笑しくて可笑しくて、カルロはたまらず吹出してしまった。
|
|