「Form des Gluckes」 page 5

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「何で笑うのさー!試していいって言ってるだろっ」
「遠慮するよ・・・ガキをいたぶる趣味はないんでな」

カルロは笑いながら、膨れっ面をしているミハエルのおでこを、指で軽くつついた。

つつくと ますますぷーっと膨れる様が、たまらなく可愛い。
ミハエルに こんな顔をさせられるのは自分だけだと思うと、つい意地悪をしたくなってしまう。

しばらく じゃれていたカルロは、ふと思いついて言った。

「お、おい・・・そう言えば、お前のオヤジ・・・どうしたんだ?」

「あ、パパね、お出かけしてて いなかったんだ!」

ミハエルは、父親がここに来ていた事は黙っている事にした。
どんな事情があっても、カルロが従兄弟達を殴った事は事実なので、
それを父親に見られたと知ったら、カルロを苦しめてしまうに違いないから。


カルロと従兄弟達のやり取りを思い出していたミハエルは、不意に顔をぽんと赤くした。

「ね・・・さっき、ぼくのために怒ってくれたんだよね?」

ミハエルの視線に、カルロは焦って顔をそむけた。
何とか触れないように話題を遠ざけようとしていたが、無駄な努力に終わってしまった。
かと言って、素直に「そうだ」と答えてやれるような彼ではない。

「カルロ、こっち向いてよ!」
「・・・・・・」

「こっち向くの!」
「!」

ミハエルはカルロの頬を両手で包むと、ぐいと自分のほうを向かせた。
まるで母親が子供にするような仕草。
少しでもそんな考えが過ってしまったカルロは、当惑したまま、ただミハエルを見つめるしかなかった。

「ありがとう・・・すごく、嬉しかった・・・!」

ミハエルは、頬を桜のように美しく染めて微笑んだ。
カルロが慌てて言葉を返そうとした瞬間―――


思いきり背伸びをしたミハエルが、勢いよく唇を押し当ててカルロの口をふさいだ。
大きく見開いたカルロの目に、きつく目を瞑って、顔を真っ赤にしているミハエルの顔が映る。

「お礼だよっ!」

耳まで真っ赤になって、一目散に走っていく姿。
カルロがミハエルの同意を得ないうちに一方的にキスしてしまうことは少なくはないが、ミハエルの方からキスをしたのは これが初めてだった。

「ったく・・・ガキが慣れない事すっから・・・」

一人残ったカルロは、苦笑しながら、唇に微かに残る柔かな感触を指で追った。

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「Form des Gluckes」・・・Shapes of Happiness(独)