どうにも、フカフカ過ぎて落ちつかない。 豪華なベッドの感触に慣れないでいたルキノは、ふと窓の外に目を向けて仰天した。 藤吉と料理屋に入ったのは、確か昼過ぎ。しかし今は、すっかり夜の帳が下りている。 「もう夜じゃねーか!オレは帰るぜ」 慌ててベッドから起きようとするルキノを、藤吉が止めた。 「だったら、今日は泊まっていくといいでげす!」 「なっ・・・何言って・・・?!」 ルキノは顔を強張らせた。藤吉の言葉が理解できない。 ちょっと助けた(誤解だが)だけの自分に食事をおごり、あまつさえ部屋に泊めようとする。 過去に酷い仕打ちをしたはずの自分に、こんなにも、優しく接する。 底無しのバカで、とことんお人よしのお坊ちゃまなのか・・・ それとも・・・・もっと、違うのか・・・・・・? 「あいてて・・・」 立ち上がろうとした藤吉が、膝を押さえて痛みを訴えた。 両方の膝に赤い痕が残っている。 ルキノは、はっとした。 「お前・・・ずっと・・・俺の傍に・・・」 「え?何でげすか??」 ルキノは顔をそむけると、ベッドに寝転がった。 こいつ、何時間も、ずっと俺の横で、膝をついて、ずっと俺の看病をしてやがったのか。 そう言えば、誰かに看病してもらうなんて事・・・初めてかもしれないな。 「まぁ、テメーのせーでぶっ倒れたんだからな!・・・ここ、居ごこちいーし、泊まってってやるよ」 ちょっと、嘘をついた。 嬉しそうな藤吉の笑顔が、何だか妙に、くすぐったかった。 「ルキノ―・・・もう寝たでげすか?」 パジャマ姿の藤吉が、隣の部屋から様子を見に来た。 ベッドにルキノの姿は無い。 藤吉は部屋の中へと歩きながら、ルキノの姿を探した。 「あ、あれ?どこ行ったんでげすか?!」 「・・・・ここだよ」 声のしたほうを振り向いてみると、部屋の隅っこでシーツに包まっている不機嫌そうな顔があった。 藤吉が部屋の明かりをつけたので、シーツのダルマは、さらにバツが悪そうな顔をした。 「な、何やってるんでげすか?」 「っせーな・・・どうも柔らかすぎるベッドってのは寝心地悪くてよ」 ルキノがいつも使っているベッドは、板の上に薄いシーツをかけただけの粗末なもの。 その硬さに慣れてしまっている彼には、柔らかさがかえって邪魔に感じられたのだ。 広すぎる部屋も、どうにも落ち着かない。 藤吉はソファーの上に置いてあるクッションを一つ抱えると、モコモコしているダルマに歩み寄った。 「んだよ?」 「わても一緒に寝てもいいでげすか?」 またしてもルキノの返事を待たずに、藤吉はシーツにもぐりこんだ。 ルキノの隣に顔を出すと、目を輝かせた。 部屋の隅っこから見る景色。それは、藤吉にとって初めて見る世界だった。 |