イタリアからドイツに戻る飛行機の中。 ぼんやりと窓の外を眺めるエーリッヒだが、隣にミハエルの姿は無い。 一緒に帰っても良かったのだが、自分がシュミットに説明してからの方がいいだろうと思ったエーリッヒが、ミハエルに午後からの帰国を勧めたのだ。 ミハエルは素直に喜んでいたが。 今から帰れば、ちょうど会議が終わったシュミットにばったり出くわすだろうな・・・ シュミットへの説明を あれこれ考えていたが、前夜あまり寝ていないせいもあって、エーリッヒは やがて小さな寝息をたて始めた。 「・・・報告を聞こうか」 会議が終わってユニフォームを着替えていたシュミットは、ロッカールームに入ってきたエーリッヒに唐突に切り出した。 少し声が上ずっている。 この分だと、会議中も気が気ではなかったようだ。 「俺が見たのは、カルロを胸に抱いて眠るミハエルの姿だけだ・・・心配することは無かった」 シュミットを安心させたい一心で、できるだけ平静を装って発したセリフだったが、さらりと言った事が、かえってシュミットの神経を逆なでしてしまった。 シュミットはユニフォームをロッカーに投げつけると、振り返ってエーリッヒに怒鳴った。 「そ、そんな状況で何も無かったって言うのか?あの男のことだ、信用できない!」 「ミハエルも嫌だったら抵抗するだろ・・・好きならいいんじゃないのか?」 エーリッヒは少しむっとして反論した。 シュミットに怒っているわけではない。 ただ・・・シュミットが、ミハエルを心配しているからとはいえ、カルロ−自分以外の男−に心を割いている。 その事が気に入らないのだ。 ちなみにミハエルは、『自分以外の男』には当てはまらないらしい。 シュミットは、そんなエーリッヒの複雑な心境には気が付かず、まだ怒りが収まらない。 「そりゃ、ミハエルが1から10まで知ってるなら構わないさ・・・私にだって責任があるんだぞ!」 再びエーリッヒに背を向けると、床に落ちたユニフォームを拾い上げ、軽くはたいてロッカーにしまった。 一息ついて、少しは落ち着いたようだ。 「だいたい・・・エーリッヒは無責任過ぎるぞ!ミハエルはリーダーだが、我々より二つも年下だということを、もう少し認識してくれよ」 「すまない・・・」 不意に後ろから聞こえた声に、シュミットは はっとなった。 怒りに任せて、エーリッヒに やつあたりをしていた自分に気づく。 シュミットは慌てて振り向くと、しょんぼりしているエーリッヒに謝った。 「ごめんエーリッヒ!言いすぎたよ・・・わざわざイタリアにまで行かせたのに・・・ごめん・・・」 |